所有権移転外ファイナンスリース取引の仕訳と税務処理について

リース契約を結んだ時の会計処理は、固定資産の購入の処理と比べて確認すべきポイントが多い論点だと思います。

 

そのため苦手としている経理担当者の方も多いのではないでしょうか。

 

所有権移転外ファイナンスリース取引には、原則と例外の2パターンの処理があります。

 

しかし、あなたの会社が中小企業に該当すればどちらも選べるため意外と会計処理は簡単です。

 

この記事では、法人をベースに所有権移転外ファイナンスリース取引の仕訳と税務処理について解説しています。

 

法人税ではリース取引をこう定義している

法人税法上のリース取引とは、資産の賃貸借(土地の賃貸借のうち一定のものを除く)のうち、①解約不能 ②フルペイアウトの要件を満たすものをいいます。

 

  1. リース期間中の中途解約が禁止されているものであること又は賃借人が中途解約する場合には未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部(原則として90%以上)を支払うこととされているもの
  2. 賃借人がリース資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、リース資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているもの

 

①の解約不能は、契約書に「契約期間中に途中解約ができない」、「解約する場合は、残金相当額または解約金が必要」などと記載されていることが多いかと思います。

 

②のフルペイアウトについては、契約書に②のような文章や「フルペイアウト」という文言は入っていないことが多いと思います。

 

その場合は、リース期間において賃借人が支払うリース料の合計額がいくらになるかを調べましょう。

 

リース料の総額が、その資産の購入価額のおおむね90%相当額を超える場合には、リース資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであると判断します。

 

法人が平成20年4月1日以後に締結する契約に係るリース取引のうち、上記に該当するとリース資産の売買があったものとされます。

 

また、法人税法上のリース取引と、会計上のファイナンスリース取引には若干の違いがありますが、中小企業の経理をする上ではほぼ同じであると考えていいでしょう。

 

 

所有権移転外ファイナンスリース取引とは

法人税法上のリース取引のうち、次の6つのいずれにも該当しないファイナンスリース取引が、「所有権移転ファイナンスリース取引」になります。

 

所有権移転の具体例
  1. リース期間の終了時又は中途において、リース資産が無償又は名目的な対価の額で、そのリース取引に係る賃借人に譲渡されるもの
  2. リース期間の終了後、無償と変わらない名目的な再リース料によって再リースをすることがリース契約において定められているもの
  3. リース期間の終了時又は中途においてリース資産を著しく有利な価額で買い取る権利が賃借人に与えられているもの
  4. 賃借人の特別な注文によって製作される機械装置のようにリース資産が、その使用可能期間中、その賃借人によってのみ使用されると見込まれるもの、又は建築用足場材のようにリース資産の識別が困難であると認められるもの
  5. 賃貸人に対してリース資産の取得資金の全部又は一部を貸し付けている金融機関等が、賃借人から資金を受け入れ、その資金をして、その賃借人のリース取引等の債務のうちその賃借人の借入金の元利に対応する部分の引受けをする構造になっているもの
  6. リース期間がリース資産の法定耐用年数に比して相当短いもの(賃借人の法人税の負担を著しく軽減することになると認められるものに限る)

 

 

なお、「リース期間がリース資産の法定耐用年数に比して相当短いもの」とは、

 

  • リース期間がリース資産の法定耐用年数の70%に相当する年数(1年未満の端数切捨て)
  • 法定耐用年数が10年以上のリース資産については60%に相当する年数

 

を下回る期間であるものをいいます。

 

確認するところが6つもあってややこしく感じてしまうかもしれません。

 

実務で所有権の移転について判断するときは、契約書に「再リース」や「物件の返還」に関する条項がないか探してみてください。

 

所有権移転外ファイナンスリース取引の場合は、

 

  • 再リース:リース期間の満了に際し、リース契約をさらに1年間更新することができ、再リース料は○○円とする
  • 物件の返還:リース契約がリース期間の満了により終了したときは、甲は、物件を現状に回復した上、乙の指定する場所に返還する

 

といった文言が契約書に書かれていることがよくあります。

所有権移転外ファイナンスリース取引の仕訳

原則的な仕訳

企業の担当者からするとリースは賃貸借取引なので、支払った金額を経費として処理すると思われるかもしれません。

 

ただし、原則的にリース取引は売買取引として処理をしなければなりません。

 

1.契約時にリース料総額(毎月の支払額×リース期間)で、「リース資産」と「リース債務」を計上

 

借方 金額 貸方 金額
リース資産 ○○円 リース債務 ○○円

 

2.リース料支払い時は、「リース債務」を取り崩す(経費の計上はしない)

 

借方 金額 貸方 金額
リース債務 ○○円 普通預金(当座預金) ○○円

 

3.「リース資産」は、他の固定資産と同じように減価償却を行う

 

借方 金額 貸方 金額
減価償却費 ○○円 リース資産 ○○円

 

リース資産の減価償却は、リース期間定額法で行います。

 

リース期間定額法

リース期間定額法の償却限度額

= ((リース資産の取得価額 - 残価保証額(注)) / リース期間の月数) × その事業年度におけるそのリース期間の月数

(注)「残価保証額」とは、リース期間終了時にリース資産の処分価額が、所有権移転外リース取引に係る契約において定められている保証額に満たない場合に、その満たない部分の金額を賃借人が支払うこととされている場合におけるその保証額をいいます。

 

 

また、契約書に「利息」の金額が記載されているときは、利息部分を「リース債務」とは別に計上していくことになります。

 

しかしながら、実務的には利息部分が契約書に記載されていることはほぼないと思うので省略。

中小企業向けの仕訳

中小企業は、リース取引を原則的な売買処理の方法によらず「賃貸借」取引として処理をすることもできます。

 

中小企業とは、金融商品取引法の適用対象会社または会社法上の会計監査人設置会社以外の会社です。

 

1.契約時には仕訳なし

 

2.リース料支払い時は、支払金額を経費として計上

 

借方 金額 貸方 金額
支払リース料(賃借料) ○○円 普通預金(当座預金) ○○円

 

3.減価償却も行わない

 

なお、売買処理をするリース資産について、賃借人において支払リース料(賃借料)として損金経理した金額は「減価償却費として損金経理した金額」に含まれます。

 

したがって、法人税の申告書を作成するときに別表調整をする必要ありません。

その他の取り扱い

所有権移転外ファイナンスリース取引は、少額な固定資産を購入したときに受けられる特例の一部が適用できません。

 

  1. 取得価額が10万円未満の取得価額の全額損金算入
  2. 使用可能期間が1年未満の場合の取得価額の全額損金算入
  3. 取得価額が20万円未満の一括償却資産の損金算入

 

中小企業者等の少額減価償却資産(取得価額30万円未満のもの)の取得価額の損金算入の特例制度については、適用を受けることができます。

 

通常、リースを組んで契約するものにあまり少額なものはないと思いますが、念のためご紹介しました。

 

 

所有権移転外ファイナンスリース取引と消費税

売買処理を選択した場合

法人税法上のリース取引については、原則として、賃貸人が賃借人にリース資産の引渡しを行った日に資産の譲渡があったことになります。

 

したがって、事業者が行ったリース譲渡が課税資産の譲渡等に該当する場合には、そのリース資産の譲渡対価の全額がその引渡しを行った日の属する課税期間における資産の譲渡等の対価の額に含まれます。

 

つまり、リース契約の締結日の属する課税期間でリース料総額に対する消費税額全額が仕入税額控除の対象(一括控除)となります。

賃貸借処理を選択した場合

法人税法上のリース取引として売買処理をすべきものを賃貸借取引として処理をしている場合には、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとする処理(分割控除)が認められています。

 

つまり、その課税期間中に支払ったリース料に対する消費税額のみを仕入税額控除の対象とすることになります。

 

ただし、リース料総額に対する消費税額全額を仕入税額控除の対象とすることも可能です。

 

賃貸借取引と処理をしつつ、消費税額を全額控除した場合は、会計処理の方法と消費税額の計算が異なることになります。

 

そのときは、

 

  • 帳簿の摘要欄等にリース料総額を記載する
  • リース資産の価額から消費税額を算出するための資料を作成し、保存する

 

などの方法により帳簿においてリース料総額(対価の額)を明らかにする必要がでてきます。

償却資産税はどうなる?

償却資産税とは、固定資産税の仲間で不動産(土地、建物)以外の資産に課税されます。

 

毎年1月1日時点で一定の固定資産を所有している事業者は市区町村に申告をし、納税の必要が出てきます。

 

所有権移転外ファイナンスリース取引で売買取引をしたとみなされたリース資産についても償却資産税は課税されます。

 

ただし、申告・納税をするのはリース資産の貸し手であるリース会社となります。

 

なぜなら、リース資産の所有権はリース会社にあるからです。

 

 

まとめ

リース取引は単なる賃貸借取引として処理すればいいと思っていた人も多いかと思います。

 

実際は、きっちりと契約内容を確認し、①解約不能 ②フルペイアウトの要件に該当していると法人税法上のリース取引として売買処理をすることになります。

 

ここで処理方法を間違うとリースが終わるまでのすべての経理処理が間違ってしまうかもしれません。

 

ただし、中小企業に該当すると法人税法上のリース取引でも賃貸借取引として処理をしてもかまいません。

 

自社の経理処理がやりやすいほうを選択すればいいと思います。

 

また、消費税の取り扱いも売買取引・賃貸借取引の2パターンから選択できるので注意してください。